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論文タイトル Observed variations of upper ocean zonal current in the western equatorial Pacific and their relation to the local wind 雑誌名:Journal of Geophysical Research-Ocean 2002 著者:松浦浩

赤道上東経142度および147度におけるADCPを用いた表層の流れの係留観測のデータ(以下緯度省略)の解析を中心に、観測された熱帯西部太平洋表層での流れの変動と局地的な風との関連を調べた。

流れの東西成分の観測全期間の平均は最も浅い共通の観測層(40m)では西向きであるが、年毎の平均を計算すると東向きになる場合もあった。西向きの流れの極大の深さは平均する期間にあまり影響されず、東経142度、147度両測点で70~90mであった。この極大層の下で平均流速の絶対値は減少し、ほぼ130~140mの深さで0となり、その下で平均流は東向きの赤道潜流となった。この流れが0になる深さもあまり平均する期間に影響されない。赤道潜流の極大の深さは142度では約210m、147度では約240mにあった。流れの南北成分の平均は東西成分の平均にくらべ弱く、また平均する期間により、流向も含めかなり変動した。ただし70m付近で見られる数cm/sの北向きの極大は、平均する期間によらず常に存在するようである。

低周波域(<0.01Cph)では流れの東西、南北成分ともに浅くなるにつれエネルギーが増大した。2~5x10-3Cph付近では両成分において表面近くと中層(150~200m)にエネルギーの極大があり、中層の極大の深さは表層流と潜流の境の流速の鉛直シアの比較的大きい所とほぼ一致した。高周波域では潮汐成分(K1、O1、M2、S2)が卓越するが、半日周潮のほうが日周潮よりも強かった。高周波域では深さによるエネルギーの変動は明確ではない。

142度および147度での流れの東西成分のコヒーレンスは観測のほぼ全期間で計算した場合、1.5x10-3Cph以下の周波数で約110m以浅では0.6以上となり、また約150mに極大があった。表層のコヒーレンスの極大は12月〜5月にかけて大きくなり、6月〜10月にかけて小さくなった。2地点間の流れの南北成分のコヒーレンスは70m、150mおよび200m付近に弱い極大(<0.5)を持った。1994年11月より1996年10月の2年間のデータを用い、流れの東西成分と局地的な風速とのコヒーレンスを計算したが、その結果1年および半年周期を含む帯域と30-80日程度の周期の帯域で高いコヒーレンスが見られた。この内1年および半年周期では表層の非常に薄い層でコヒーレンスが高く、また、100mおよび、160mを中心とした極大が存在した。位相は表層附近では0度であったが、100mでは180度、また、160mでは-68度となった。30-80日程度の帯域は大気のMJOに対応するものと推定されるが、この帯域ではコヒーレンスは表層から75m程度迄高く、また、150mを中心とした極大があった。位相については表層ではほぼ一様で、-60度程度であったが、150mを中心とした極大層では180度となった。この極大層の深さは表層流と潜流の境の深さに近く、湧昇および降昇の効果によるものではないかと推定された。

一年周期の変動は観測最浅層では流れの東西成分と局地的な風の応力の東西成分との間に強い相関が認められた。しかし、100mを中心とした深さでは、風の年変動(貿易風とモンスーン)に伴う赤道潜流の分枝が6-8月におこるため、東向風が卓越する11-2月に加え、東向流の極大が一年に2回おきることがわかった。上述の100mを中心とした180度の位相をもつコヒーレンスの極大はこの現象によるものと推定された。なお、CTDデータにより6-8月には湧昇が起きていることが認められ、また、南北方向の密度分布より地衡流を計算したところ、100mを中心とした赤道潜流の分枝の流速とよく一致した。この赤道潜流の分枝は東経142度に比べ147度では特に顕著であるが、この両測点間の差異の理由はまだわかっていない。

30-80日程度の周期の変動については、それらをさらにくわしく調べるため30-80日の帯域をもつバンドパスフィルタを適用したデータについて、計算期間を160日とし、計算開始日を40日づつずらすことにより、流れの東西成分と風の応力の東西成分のラグ相関の最大値の時系列を計算した。この結果によれば表面附近では一般に相関が高いが、観測最浅層よりも深い層に極大がしばしば現れた。表面附近での高相関は表層流と潜流の境あたりの深さ迄みられ、表層流と潜流の境の深さが時間と伴に変動するにつれ変動した。この理由としては、表層流と潜流の境附近では上述の湧昇および降昇の効果により、相関は負(または正値であれば極小)となることと、また、表層流と潜流の境は表面近くの等温層の底に比較的良く一致し、表層附近の風の影響が等温層に限られているためではないかと推測された。なお、前述のように、6-8月頃には湧昇が起きているが、その時期には高相関の層の下限は上昇する。なお、この周期帯での表層流と潜流の境の変動と、29度と20度の等温線間の厚さの変動との相関は高いことが示された。

30-80日の帯域をもつバンドパスフィルタを適用した流れの東西成分のデータのうち、風の応力の東西成分と相関が高かった期間のものに対して観測最浅層から100m迄のデータを用い、時間領域の複素EOFを計算した。モード1の時系列は風の応力との相関が高く、風に励起された成分であると推定された。振幅の鉛直分布は1995年春-夏期には深さとともに急に減少するが、1996年冬-春期には比較的厚い層で振幅が大であった。この差は上述の相関の大きな層の厚さの両時期の差と一致し、表面近くの等温層の厚さの差に起因するものと推定された。また、観測最浅層より深い層で振幅の極大が見られたが、これらの極大の深さは平均東西流の鉛直傾度が正の極大になる深さと一致し、上述の湧昇および降昇の効果と同じ原因である非線形項(wau/az, au/azはuのzに関する偏微分)の効果によるものと推定された。これについてはwを表層流と潜流の境の深さの変動より求めてwau/azを計算し、それにバンドパスフィルタを適用したものを調べたが、CEOFのモード1の振幅が極大を持つ深さでは、wau/azは加速度を増加させるような変動をしていることがわかった。周期については1995年春-夏期においては観測最浅層より深い層での変動が観測最浅層よりやや先行することが認められた。この深い層での変動は表層流と潜流の境の深さの変動の位相とよく一致するが、表層流と潜流の境の深さの変動が観測最浅層での東西流の変動より先行する理由はわかっていない。

計算されたCEOFモード1の変動の振幅は、風の応力が鉛直の渦粘性による拡散で伝えられたもののみと考えた場合に比べ数倍程度大きかった。また、東経142度での変動の振幅に比べ、東経147度の変動の振幅は大であったが、この差は赤道ケルビン波が142度から147度に伝播する間に風によって増幅されたものと解釈できるよりも数倍大であった。変動の振幅がこれらの単純な線形理論より大であったことの原因の一つとして、上述の非線形項の効果が考えられるが、wそのものを実測で求めることは困難であり、そのため非線形項の効果を定量的に調べるのは困難である。

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